被災した子ども 泣いたっていいんだ

3月30日の毎日新聞社説の転送
執筆者は、知的障害児の父親であり、千葉県の障害者差別禁止制定にも深くか
かわってこられた野沢和弘論説委員です。
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20110330k0000m070164000c.html

社説:被災した子ども 泣いたっていいんだ
 父や母を求めて避難所を回っている小学生がいる。がれきの中から思い出の写真やカバンを探す子どもたちもいる。卒業式では笑顔も見られた。「がんばれ」。けなげな姿に全国から声が上がる。死者1万人以上、行方不明者1万6000人以上。信じられない現実を前にしたら誰だって励ましたくなる。どこかに希望を見つけたくなるものだ。
 しかし、子どもたちは十分にがんばっている。現実に起きたことを大人のようには理解できず、気持ちをうまく伝えられなくても、恐怖やショックによるトラウマ反応、家族や自宅をなくした喪失感は子どもの心にも起きる。今、必要なのは励ましよりも、小さな変化に周囲が気づき適切なケアをすることだ。
 眠れない、食欲がない、赤ちゃん返りをする、大きな音におびえる、いらいらする、夢にうなされる、好きだったことをしなくなる。このような様子が見られたら注意が必要だ。「大丈夫だよ」と声をかける、寝るときは一人にしない、スキンシップを心がけるなど、安心感を与えるための配慮が必要になる。被災体験を繰り返し話す子もいるが、衝撃的な現実をなんとか受け入れようと苦しんでいるサインだと思って辛抱強く聞いてほしい。
 「弱音を吐くな」「もっと大変な人がいる。負けるな」などの叱咤(しった)激励は禁物だ。こちらは一生懸命に励ましているつもりでも、子どもを追い詰めるだけという場合がある。自分だけ生き残ったことで罪悪感に苦しんでいる子もいる。泣きたいのに我慢したり、つらい気持ちを隠したりする必要はないことを伝えるべきだ。被災した子どもへの対処法については日本臨床心理学会や国立精神・神経医療研究センターがホームページで紹介している。心のケアの専門職が被災地に入っているもののとても足りる状況ではない。関係学会はメールや電話相談も開設しているので積極的に利用してほしい。
 被災直後は気持ちが張っているため休まなくてもがんばり続けられるが、長期化すると急に落ち込んだり体調を崩すことがある。被災後の小さな症状は適切な配慮をすれば一過性のものとして回復することが多い。しかし、そうした症状が1カ月以上続いたらPTSD(心的外傷後ストレス障害)の疑いがあり専門的なケアを受けることが必要だ。
 また、衝撃的な映像を繰り返し見ることで直接被災していない子どもにも不眠などの症状が起きる場合がある。不安を訴え、教室で突然泣き出した子もいるという。日常の中の異変を見落とさないでほしい。
 これからが正念場だ。小さな命をみんなで守りたい。

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