機関紙「ゆめごよみ風だより」57号より
リレー・エッセイ 災害と障害者 第三十八回
【気仙沼 ケアホームめぐみ からの便り】
菅原満子
初めて投稿させていただきます。
ケアホームめぐみの入居者さんの中にはゆめ風さんを「私のあしながおじさん」と呼び、自らお礼の葉書を出している方もおられます。ホーム再建もすでに工事が始まっており、ゆめ風さんがどれだけ私たちの働きに貢献されているかを、入居者さんの言葉で優しく伝わればいいなと祈っていました。
震災でこちらはまだ混乱の中にあり、瓦礫は片付いてもこれからどうして行けばいいか・・?という模索の中で、悩み、時には諦め落胆に陥り、法律や制度も改正や措置の延長などの変化があまりにも多すぎて、誰もが忙しさの中、順応すら出来ずにいます。
自分のことで精いっぱい、他のことが考えられなくなり悲しくなる日もあります。皆どこに働きかけ、何を助けてもらえばいいのかも分からない渦中に誰もが置かれ、不安や孤独と戦っています。
それでも、とりあえず無我夢中で精一杯やっていると誰かが認めてくれて、助けてくれる。それがどんなに嬉しいことか、何気ない事を感謝され「ありがとう」の一言がどんなに明日の力になるかを気付かされた一年でもありました。ゆめ風さんとの出会いも私の中で、その事を教えてくれた一つの出会いでした。
私は縁があって平成二十年にケアホームめぐみ創設に携わり、三年目に第二ケアホーム増設直前で震災の被害にあいました。
気仙沼でも南三陸町に近いこの本吉という地域には、障害者のグループホームやケアホーム・障害児の利用できる施設はほとんどありませんでした。
この地域の障害者は在宅が困難で余儀なく入院、もしくは入所施設で暮らしていましたが、このケアホームが出来て地域生活が現実化し、就労ができる「あたりまえの日常」の中に「生きがい」を見出す入居者さんを見ていると、幸せって実は本当に小さなことなんだ・・・と思い知らされます。
理事長からこの依頼を受けた時に、自分にもダウン症の息子がいるとあって、地域の「手をつなぐ親の会」のお母さん達とも打ち解け、今まで子供を預けるにしても遠くの施設まで預けに行くのが大変、という悩みを抱えていることを知り、何とか力になれないかと思い立ったのが始まりでした。
私自身も以前は子供が小さいころは、学童保育などに預けるとご迷惑をかけてしまう遠慮や、年老いた父母に預ける心配があり(目を離すと怪我が多かったので)今の職について我が子の傍で仕事ができる幸いを日々噛みしめています。
障害を持つ親御さんは特に、我が子を理解してくれる人がいる場所で大切な時間を過ごして欲しいと願っていると思います。
私はこのケアホームめぐみが、教育的な場所ではないにしても、多くを望まず親子にとって「ただ居るだけで何となく安心できる場所」になっていけたらそれでいいと思っています。
ケアホームめぐみのストーブは利用者さんがいくら言っても乱暴に扱う為、すぐに壊れるし、キッズハウスのエアコンも、自閉症の子供にリモコンを隠され使えなくなる時がしばしばあります。「でも、寒くても何でも、めぐみに来ると何故か心が温まるんだよねえ」と言ってくれた人がいました。そんな何気ない一言が「大したことは出来ていないけど、これでいいんだ」と、自分たちの働きをいくらかでも肯定してくれた気がします。
震災後、我が法人にはホームページも無いので、せめてブログを立ち上げようと始めましたが、このブログは私たちが沢山の方々に支えられていること、また私たちがいろんな事を考え、喜び悩む姿を「伝える」、そして「繋がっていく」為のツールだけではなく、時には「傷ついている誰か」をいつの間にか励ますものにもなっていたようでした。応援してくれている人がいる、だから頑張ろうと。
でもこの被災地では、単純に思えるようなことが、簡単な動作ではありません。どうしたら頑張ることができるか考えることすら、頭を抱える現実です。ゆめ風さんを始め、多くの団体の皆さんが、被災地の為に何が出来るか?ということも一緒に考えてくれているから、辛うじて立って前を向いていられます。
福祉という分野は特に優しさに満ちた場でありたい・・といつも自分の心に願っています。
どのような場所であっても、困難は必ず自分の前に立ちはだかる時は来ます。そんな時でも、乗り越える強さとなる助けが、様々な形で与えられることにいつも感謝しよう、そうすれば自分に出来ることを一つずつゆっくりとでも前へ進んで行くことが出来る、そう思えるようになったのは震災で出会った沢山の方々のおかげです。
ひとりひとりの善意がやがて目に見える形になるように、これからも私たちに限らず、苦しみを負っている方々への支援をどうぞ宜しくお願いいたします。憐れみを持つ皆様の心に豊かさが増し加えられて、更に大きな益となりますように。
すがわらみつこ NPO法人泉里会「ケアホームめぐみ」(気仙沼市本吉町 障害者共同生活介護事業所・短期入所・日中一時支援事業所)ケアマネージャー。気仙沼バプテスト教会員としても奉仕活動に携わる。海岸線が美しいこの町も津波の被害あい「ケアホームめぐみ中島」開設直前に津波により流失。障害者就労の場イチゴハウス5棟も全て失う。