情報提供

内閣府に設置された「震災ボランティア連携室」室長の湯浅誠さん
からメールがきています。
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> 【おしらせ】
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> このたびの震災で被害に遭われたすべての方に、お見舞い申し上げます。
>
> ◆1◆3月16日、政府の「震災ボランティア連携室長」に就任し、ボランティアベースで
> 運営されているサイト「たすけあいジャパン」(http://www.tasukeaijapan.jp/)に以下
> を寄稿しました(室長として)。
>
> ◆2◆3月24日の毎日新聞に以下を寄稿しました(連載している「私の社会保障論」の一環
> として)(なお、ここに掲載するのは校正前原稿ですので、新聞に掲載される文章とは若
> 干異なります)(反貧困ネットワーク事務局長として)
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> ◆1◆(3月22日執筆)
>
> このたびの東北地方太平洋沖地震で被災された方々に、深くお見舞い申しあげます。
> そして今、被災された方を支援するために活動を展開している、またその準備を進
> めているあらゆる方々に、こころから敬意を表します。
>
> 今回の大震災は、戦後最大の災害となってしまいました。東日本全域に及ぶ広域性、
> 地震・津波・原子力発電所の複合災害、亡くなられた方、依然として行方不明の方た
> ちの数、被災された方たちの数、いずれをとっても過去に例のないものです。
>
> そして、「数」にまとめられない一人ひとりの困難の独自性と多様性を思うと、私た
> ちはその無限の広がりに圧倒されます。
>
> そんな中でも、被災者の方たち自身を始めとしたさまざまな人たちが、「これ以上の
> 死者を出さない」「打ち捨てられた気持ちにさせない」という思いを形にし始めてお
> り、そこに私たちは人間の底力の強さを垣間見て、励まされています。
>
> 内閣官房震災ボランティア連携室は、被災者の方たちを始めとする、そんな方の力強
> さ、一人ひとりに寄り添う気持ちとともにありたいという思いから発足しました。
>
>
> 今回の大震災では、津波災害の甚大さから安否確認が難航し、物資やガソリンの不足
> が解消されないという初期の危機的状態が続いています。他方で避難所生活が10日を
> 経過し、被災者の方たちの心身の疲労に対するケアが必要になっています。また被災
> 地以外へ避難される方も増えている一方で、被災地における仮設住宅の建設も始まっ
> ています。これまでの災害では段階的に進行していた事項が、今回は重複して進行し
> ています。
>
> また、災害時に被害実態を把握し、復興に向けた第一歩を主導すべき市町村自治体や
> 、ボランティアの登録やマッチングを行う自治体ごとの社会福祉協議会も、甚大な津
> 波被害を受けてその機能を失ってしまったところもあります。そのため、安否確認が
> できない被災者の辛さ、モノ不足・ガソリン不足による不自由さ、避難所生活の辛さ
> 等々の各種報道に接しながら、他方で被災地の受入態勢が整わず、多くの方たちが「
> いま自分に何ができるのか」というもどかしさを感じていることと思います。
>
> こうした困難を極める状況の中にあっても、高い専門性を持つボランティア団体が災
> 害後すぐに現地に駆けつけ、安否の確認や被災者のケアに努めています。また、社会
> 福祉協議会が設置する「災害ボランティアセンター」やNPOが地元の団体と連携して
> ボランティア活動の拠点を立ち上げ、少しずつですが、ボランティアの受け入れ体制
> が整いつつあります。
>
> しかし、個人のボランティアが現地で活動するにはまだ十分な受け入れ体制が整って
> いるわけではありません。災害ボランティアセンターの情報を取りまとめている全国
> 社会福祉協議会からも、「まだ一般ボランティアの受入は困難」との発信がなされて
> います。現在、被災各地に活動を開始しているNGO・NPO等々のボランティア団体は、
> 食料・宿泊場所等を自前で用意して被災地に負担をかけず、かつ被災現地に受入のパ
> ートナーを持ち、災害ボランティアセンターのコーディネートがなくても支援活動を
> 展開できる、「自己完結型」のいわば「災害時支援のプロ」、または被災地市内・県
> 内在住の方に限られています(http://blog.goo.ne.jp/vc00000/)。
>
> しかしそれは、「個人では何もできない」ことを意味するわけではありません。?義
> 援金は言うまでもなく、?お住まいの各都道府県で支援物資の受付を行っています(
> http://www.shakyo.or.jp/saigai/pdf/20110318_02.pdf)。また、?被災地以外の地
> 域でも、被災者の一時避難所が開設され、受入れが始まっていますので、今後は各地
> の公営住宅等へ入居される方たちも出てくるでしょう。さらに、?すでに多くの指摘
> があるように、今回の大震災の復興過程は長期にわたる可能性があります。基本的イ
> ンフラが回復した後も、一人ひとりのニーズに寄添った息の長い支援は必要です。
>
> この災害から日本が立ち直るためには、みなさまの力が不可欠です。
>
>
> もちろん、ボランティアは個人の自発性と主体的意思によって行われるものであり、
> 誰かに指示されて行うものではありません。私たち震災ボランティア連携室にも、ボ
> ランティアをコントロールする意図はありません。現場は時々刻々変化する生き物で
> あり、統制や一元化を試みれば、それをしているうちに現場の最重要課題は別のこと
> に移ってしまっている。私たちはそのことを認識しています。
>
> 他方で、ボランティアの存在によって、行政の公的責任が減免されるものでないこと
> も、言うまでもありません。行政は行政の果たすべき責任を最大限追求すべきである
> こと、それはボランティアが存在しようがしまいが、変わりません。
>
> したがって、震災ボランティア連携室の役割は、政府・自治体の行政責任が最大限果
> たされることを前提に、戦後最大の大災害の中、それでも手の届かない部分が出るこ
> とを想定し、そこで活躍してくれるボランティアの方たちが力を発揮しやすいように
> 、情報提供や連絡調整などの点において、ボランティアのみなさんをサポートさせて
> もらう点にあります。
>
> 16日の発足以来、企業に限られていた緊急通行車両標章の発行について、現地へ物資
> を運んだりボランティア活動を展開する非営利団体への適用拡大について政府内の調
> 整を進めるとともに、防災ボランティア団体の方たちとの現地での現状把握を行って
> きました。また、現地で必要とされているニーズを的確に伝え、ボランティア活動が
> より円滑になることで被災者の生活再建に役立てることを目的に、本ウェブサイト等
> への情報提供を行っています。
>
>
> 最後に。「ボランティア」と一口に言っても、専門性や集団性において多様な形態・
> 担い手がありますが、第一のボランティアは、すでに被災地で被災された方々自身に
> よって担われています。避難所の運営や炊き出し、子どもやお年寄りのケアなど、地
> 域のコミュニティ力がそうした形で発揮されていることを、私たちはすでに各種報道
> 等を通じて見聞きしています。また第二のボランティアも、すでに各市町村の災害ボ
> ランティアセンターで市内在住者や周辺地域の人々の手によって担われ始めています。
>
> 私たちは、ともすると、災害で無力になった被災者とそれを助ける外部のボランティ
> アという図式に陥りがちですが、復興過程全体を通じた目的が、被災者一人ひとりの
> 生活改善と、それを取り巻く地域のコミュニティ力の以前にも増した強化であること
> は、どなたも異論のないところだと思います。
>
> この大災害においても、地域の課題を地域の力で解決していこうと奮闘している被災
> 地の方たちの思いに深甚な敬意を抱きつつ、それを差し出がましくない形でバックア
> ップし、手の届かないところを補っていこうとする真摯なボランティアの方たちを、
> 私たち震災ボランティア連携室がさらにバックアップさせていただきたいと考えてい
> ます。
>
> この復興過程を通じて、「そういえば無縁社会などと言われたこともあったね」と日
> 本全体で振り返られるような社会にしていくため、みなさんと力を合わせていきたい。
>
> 今後とも、どうぞよろしくお願いします。
>
>
> 内閣官房震災ボランティア連携室
> 室長 湯浅誠
>
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> ◆2◆(3月22日執筆)
>
> 毎日新聞連載13
> 湯浅 誠(反貧困ネットワーク事務局長)
>
> 前回の寄稿が遠い昔のように感じる。電車に乗れば通勤中のサラリーマンがスー
> ツに身を包んでいるし、繁華街を歩けば若者が群れているが、そんな日常的な風景
> の領域は急激に収縮していて、日常的でない現実が社会の大部分を覆っている。遠
> からず元の風景に戻っていくのだろう、と思えない自分がいる。
> 東日本全域を襲った大震災は、あらゆる意味で戦後最大の災害だ。死者・行方不
> 明者の数としても、地震・津波・原発と連鎖した複合災害としても、復興の主導権
> を握るべき自治体機能それ自体の損傷という爪痕の深さとしても、電気やガソリン
> といった私たちの生活がその上に成り立っていた基礎的インフラの激変としても。
> 震災前に、すでに日本は危機的状況に入っていた。GDP比180%という超過債務
> 、超少子高齢化による社会保障の持続可能性、デフレと人口減少、そして貧困・無
> 縁・自殺。それらが改善されないうちに、今回の大震災が襲ってきた。これからの
> 日本の進み行きは、さらに困難を極めるだろう。
> しかし、津波の襲った沿岸部で避難所生活を送っている人たちも、原発周辺で不
> 安な日々を送る屋内避難の人たちも、計画停電ですし詰めの満員電車に揺られる首
> 都圏の私たちも、これからも「この社会」で生きていく。「この社会」をあきらめ
> ることはできない。それは、そこで暮らす私たち自身の暮らしをあきらめることに
> なるから。
> すでに着手され、これから長い時間をかけて築かれていく復興過程の中で、私た
> ちが目指すべきものは何だろうか。私にとってそれは貧困や自殺に追い込まれない
> 社会であり、一人ひとりの力が発揮される条件を整える包摂型の社会である。今ま
> で求めてきたものと別の物ではない。
> すでに2週間を経過しつつある避難所生活では、生活課題が噴出しているだろう。
> それは声高に求められるものではない。ひっそりとしていて、それゆえに気づかれ
> にくく、気づいたときには手遅れになりやすい。本当にしんどい人は「しんどい」
> とは言わない。周囲に遠慮し、何よりも重荷になることをおそれ、自分に食べる価
> 値があるのか、飲む価値があるのかと自問している。その人の隣に、そのことに気
> づく「誰か」はいるだろうか。私たちの社会は、誰もがその「誰か」になれる社会
> を築いてきただろうか。十分に築いていないとしたら、これから築いていかなけれ
> ばならないのではないだろうか。
> 今回は、あまりにも多くの「取り返しのつかないこと」が起こってしまった。せ
> めてそこから学び取れるすべてを学び取りたい。それが「この社会」に生き延びた
> 私たちの責任でもあるだろう。先日、私は政府の「震災ボランティア連携室」室長
> となった。力を尽くしたい。
>
> 湯浅誠

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