プレ国際人権大学院大学講座での、ゆめ風基金理事・八幡隆司の講演を取材された報告記事が隔月刊誌 Weに掲載されました。「We」編集部のご協力で、転載します。
【報告】ゆめ風基金・八幡隆司さんのお話より
「防災」はコミュニティをつなぐ道具
(プレ国際人権大学院大学講座より「被災地の障害者はいま」)
5回シリーズの講座「人権の視点から考える東日本大震災」の第1回で、ゆめ風基金(阪神淡路大震災を機に被災した障害者市民を支援しつづけている団体)の八幡隆司さんのお話「被災地の障害者はいま」を聞いた。3月から現地に入った八幡さんは、知り合いもほとんどいない東北で活動を続けてきた。
東北沿岸部は、仙台をのぞけば、大規模な入所施設が多く、障害者本人も家族も入所に抵抗がない。施設を利用しない場合は、ヘルパーを頼むのではなく家族が支えることが当たり前になっていて、介護サービスの事業所が成り立たず、NPOも育っていない。これまでゆめ風基金は、被災当初の支援に入ったあとは地元に引き継いできたが、今回はそもそも地元のサービスが少ないため、新たな事業立ち上げも含めて、まず拠点づくりからおこなっている。
被災した障害者は、施設を頼るか遠くの親戚を頼ることが多く、避難所ではとても暮らせないとつぶれかけた自宅に留まるケースもあり、障害者の安否は避難所ではなかなか分からなかった。また「障害者=車椅子の人」と認識しているところもあり、この避難所に障害者はいませんと聞いてる横から、自閉症の子が出てくることもあった。
安否確認、緊急の物資支援の時期をすぎ、避難所から仮設住宅へ移る人が多くなってから、車が使えない人が困っている。医者や買い物へ行くための移送サービスの要望が多い。地域格差も出てきている。
避難所で「与えられ続ける」生活を何ヶ月もしているとおかしくなってくる。住民自身のはたらき、地元の力が大事で、「いかに地元に引き継いでいくか、この冬をどう迎えるか」がこれからの課題だ。地元団体との連携を強めながら、ゆめ風基金でつくった活動拠点を、地元で使えるものにしていきたいとのこと。
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お話のあと、自分ごととして考えるためにというグループワークがあった。6~7人のグループに分かれ、テーブルごとに簡単な自己紹介のあと、八幡さんからの第一問。
【避難所開設から48時間以内に必要だと思うものは?】
外部からの救援がくるまでの目安が48時間、それまでは自分たちでもちこたえるしかない。各テーブルに配られた紙に「一枚に、答えひとつ」、思いつくだけ書き、次にそれを「物資倉庫にあると思うもの(行政が用意しているもの)」と「それ以外」に分ける。作業の後、八幡さんからの解説とコメントがあった。
避難所の物資は、家がつぶれて何も持ち出せない人のために使うことが原則。物資が200人分あっても300人が来れば足りなくなる。水、毛布は持ち込める人は持ち込む。「避難所へ行けばある」と思わないことが大事。
避難所となる学校や施設の鍵を誰がもっているか知らない人がほとんどだが、知らないと入ることもできない。トイレも大きな問題。トイレを使ったら水を汲んで流す。バケツはどこ?プールの水は使える?その鍵はどこにある?そこまで具体的に考えている人はいない。八幡さんは「健常者でもトイレに困る避難所へ、障害者は来られない」と続けた。
物資倉庫に「何があるか」が分からなければ、「何が必要か」分からない。例えば大阪市の物資倉庫には簡易便器はあるが、囲いはない。それを知っていれば、トイレに囲いができるものが必要だと分かる。地域住民は物資倉庫を見ておくほうがいいし、災害が起きたときのことをふだんから話し合うことで、被災時にはこんなものが必要だ、倉庫に置いてくれと行政に提案していくこともできる。
【避難所に必要な役割は?】
これも各テーブルで書き出したものを発表し、八幡さんが解説していく。大事なのは、せっかく助かったいのちを、避難所で死なせないこと。災害発生時に行政ができることは少ない、できないことのほうが多い。地域で避難所を開設し、そこを運営するという発想が必要だと八幡さんは強調する。避難所で、例えば障害者や高齢者は何に困るか、何が必要か。高齢者や体調を崩した人を優先してカーペットの敷いてある多目的室に入ってもらうとか、子どもが騒いでもいい部屋を別に設けるとか、そういうことをふだんから考えて話し合っておく。
災害時は我慢大会のようになってしまう。被災者は「大丈夫?」と訊かれたら「大丈夫」と答える。でもその「大丈夫」は、いのちはたすかったということで、着の身着のまま、トイレにも困るというような状況で発せられていたりする。「大丈夫」といっても支援が不要なわけではない。
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「防災マニュアルを読むと分かった気になるでしょ、でも分かった気になったことは忘れる。何が必要か、こうやってみんなで考えるのが大事」。被災地で支援を続けてきた八幡さんの言葉は説得力があった。このグループワークを通じて、自分の中にぼんやりとある「なんとかなる」意識に危機感をおぼえた。消火訓練や救急救命の講習は「防災」のほんのわずかな側面で、そのあとのことが大切なのだと気づかされた。
「避難所」は災害があったら逃げ込むところ、行政から何かをしてもらうところという発想から、「避難所」は地域の拠点、支援センターで、何かあったときには「運営する」発想に変えていく。そう考えれば「避難所」は、家がつぶれてどうしようもなくなった人だけが行くところではなくて、自分の家は大丈夫でも、地域での役割分担が決められていれば、自分の役割を果たしにいくところになる。自分たちには何ができ、行政は何ができるか。地域に暮らすそれぞれの人が、災害時に何に困り、何を準備しておけば安心できるか。「防災」は、そういう地域のコミュニケーションをつないでいく道具になるのだ。
今の私には地域のつながりといってもハードルは高い。挨拶からもう一言、ご近所とまずは知りあっていこうと思った。(報告:冠野 文)
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一人ひとりが大切にされる社会の実現をめざし、知恵や情報の交換、ネットワークづくりができる〈場〉として、毎号さまざまなテーマをとりあげています。
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リック・タナカさんは、エネルギーをできるだけ使わずにすむ生き方、人のつながりに支えられた新たな地域社会の創出への希望を語ります。
自身も広島で被爆した医師・肥田舜太郎さんは、福島の原発事故のあと、私たちが被曝の現実をどう引き受けて生きていくかについて語ります。
学生時代にエクアドルに出会いフェアトレードの仕事をつくってきた藤岡亜美さんの、いのちを大事にする地域づくりの話、311の震災直後から東北へ入り被災障害者支援を続けてきた八幡隆司さんの、災害が起きたときのことをふだんから話し合える地域づくりの話、いずれも「暮らしを自分の手に取り戻す」ことを問いかけます。
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