大規模災害時における障害福祉サービス事業所のBCP(事業継続計画)研究会報告書
はじめに
2014年2月にビッグアイ(国際障害者交流センター)で行われた防災リーダー研修に、私が講師をしていた時、パーティパーティの椎名さん、福田さんが 参加をしていました。その研修を終えた 二人が私にこんな相談を持ちかけてきました。「災害時に事業所としてどう対応すればよいのかわからないんで、何か 資料がありますか?」 ちょうど福祉事業所における事業継続計画を私が勉強していたころだったので、「一緒に勉強会をやったらどうやろ」と話がとんとん拍 子に進み、
このBCP研究会が立ち上がりました。
BCPとは事業継続計画(Business Continuity Plan)の頭文字をとったもので、災害などリスクが発生したときに重要業務が中断させない。また、万一事業活動が中断した場合でも、目標復旧時間内に重 要な機能を再開させ、業務中断に伴うリスクを最低限にするために、平時から事業継続について戦略的に準備しておく計画です。
2006年4月に中央防災会議では、2015年度までの10年間に、大企業の全てと中小企業の半数以上にBCPが設定されることを目標としていました が、一般の企業だけでなく福祉の世界にもこのBCPが最近重要視されるようになりました。
2003年に厚生労働省から出された「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」においても災害時おける福祉サービスの継続という項目が盛り込まれていま す。
私たち福祉サービス提供事業所においても、災害が起こった時に利用者の状況確認をすることは大切ですし、利用者にとってはできるだけ早いサービスの提供 開始を望むことはもちろん、場合によっては普段以上のサービス提供が必要になります。
また私たちの事業所の運営は1日一人当たりいくらという支援費によって成り立っています。サービス提供が遅くなるほどその分収入も入らず事業所の運営は 厳しくなり、場合によっては倒産という事態にもなりかねません。
さらに福祉避難所の問題もあります。福祉避難所協定では行政からの依頼に応えて数日後に福祉避難所を開設することになっていますが、東日本大震災のよう にサービス提供時間帯に災害が起これば、行政の依頼とは関係なく自主的に避難所を開設する事態になります。また障害者もふだん通いなれたところが福祉避難 所になることを望んでいます。そういうことを想定して事業所が福祉避難所になることも想定しておかなければなりません。
災害を意識し、備えをしておくことは非常に大事だと感じながらも何から手を付ければと考えている事業所も多いと思います。この冊子が少しでも役に立てば と思います。
特定非営利活動法人 八幡 隆司
目次
第1部 BCP研究会の概要
第2部 災害時における事業継続計画の作成方法
第3部 日常生活支援ネットワークパーティパーティにおける事業継続計画
第1部 BCP研究会の概要
BCP研究会は4月から9月までの6回行いました。
講義を聞くというよりは、みんなでグループワークなどを通じて何が必要かということを出し合っていくことで、進めてい きました。
第1回から第6回までの概要をここに記します。
第1回 4月23日
BCPについての基礎知識
参加者の自己紹介と事業所におけるBCPの必要性について
第2回 5月21日
グループワーク
方法:模造紙の上半分に予想される問題をポストイットに書いて張り出していき、模造紙の下半分に対応すべき事柄、ある いは事前に備えるべき事柄について 張っていく。
Aグループ、Bグループの二班に分かれてグループ討論を行う。
時間は50分位で行い、その後、各グループの発表を行う。
災害の想定:時期は今の時期、5月中旬震度5〜6の南海・東南海連動型大地震が発生
その結果、津波や浸水も予想され、交通機関はマヒし、電気・ガス・水道などのライフラインはストップ。液状化現象 もあちこちで発生
それぞれのグループで
○どのような問題が発生するか
○そのことに関して事前にすべき対応・対処方法と、備えるべき事柄
の二つを考えてもらった。
第3回 6月25日
今回も2グループに分かれ、別紙1、別紙2の2枚のレジメを使って、自事業所の状況をチェックする。その後、どれくらい 自事業所で整えているか、また、そ れ以外にも事前に必要な対策、備蓄品は無いかなどを話し合う。
法人内で何か所も事業拠点がある場合は、総合的に考えてチェックする。
○あらかじめ準備しておきたい対策一覧表
すでに自分の事業所でやっていれば ○
やっていないが今後必要だと思う、現在その作業を進めている △
自分の事業所では必要ないと思えば ×
今回、5個以上○のついている団体は1団体のみ
○が5個以下の団体が大半で、全体的に△が多い団体が多数
⇒多数の団体が整備しておかなければならないとは思っている。
色々な事をしないといけないと分かる一方、自団体がいかに整備出来ていないかが分かる。
○あらかじめ準備しておきたい備蓄品一覧表
すでに自分の事業所では用意してある ○
今は用意していないが今後必要だと感じる △
自分の事業所では不要だと思う ×
比較的、自事業所にあるモノが多いという話だったが、まとめて備蓄品として置いていない場合も多いようです。
第4回 7月23日
福祉避難所を開設する為に
1. 福祉避難所として活用できる施設はどんなところがありますか?
2. 人員はどうするのが良いでしょうか?
3. どのような役割が必要になりますか?
4. どのような機材が必要になりますか?
5. その他、障害者への配慮としてどんな注意が必要ですか?
6. 上記の物や人の手配をするために、日常的にはどのような事が必要と思いますか?
以上6点のことについて2グループに分かれてグループワーク。
ポストイットに書き出していった。
第5回 8月27日
今回は、次回の第6回目を含め、残り2回という事でこれまでのまとめに入っていった。
また日常生活支援ネットワークをモデルに事業の調査・洗い出しをしてみることにした。
9月より(水)3週連続で調査
9月3日(水)、9月10日(水)、9月17日(水)の13:00〜。3回の調査でモデル事業案を作ることにした。
第6回 9月24日
モデル事業となった日常生活支援ネットワークパーティパーティのモデル案を提示。
11月22日の報告会の内容を検討。
第2章 事業継続計画の策定方法について
実際に災害時、その事業所がどのように動けばよいかという「災害時における事業継続計画」をつくるには以下のようなこと が必要となります。
1.災害想定
最近は東南海・南海トラフの複合型地震がはっせする確率が非常に高まったといわれています。大阪では上町断層が動いた時 の方が、被害が大きいとも言われ ています。
どのような地震かは別にして次のような想定をした場合の対応を考えていきたいと思います。
震度6強以上の地震が発生し、地域によっては津波被害も予想されています。電気、ガス、水道などのライフラインが途絶 え、交通機関はマヒし、携帯電話も 使えない状態になったという場合を想定します。
時間帯については
@ 平日午後2時ごろ
A 日曜など業務がない日の朝6時ごろ
の二つが考えられますが、まずその事業所が一番困るのではないかと思われる日曜など業務を行っていない時をまず想定し、そ の後事業をしている時にはどうす ればよいかを考えていくのが良いと思います。
2.まずは現状をチェックしよう!
別紙1及び別紙2で事業所の現状をチェックしましょう。
いくつ○がつきましたか? △がついた項目が今後事業所として必要な対策となります。
次に災害時に職員がどの程度対応できるか、また災害時に利用者がどのように避難するかについて事前に把握しておくため に、別紙3及び別紙4を利用し、あ らかじめ把握しておきましょう。
発災後すくに駆けつけられる職員少ない場合、やれることも限られてきます。
その場合にどんな手立てができるのかをあらかじめ考えておくことが必要です。
また利用者について個別に確認をすることで、災害対策ができていない利用者が多いことがわかると思います。その人が住ん でいる町内会・自主防災組織と連 携して、個別に災害時の対応を考えておくことが必要となります。
3.初動体制を考えよう
まず@とAの場合を分けて初動体制を確立します。
@平日午後2時ごろに災害が起きた場合
職員はほぼいる状態であり、利用者も日中活動の場であれば安否確認の必要はありません。ただ電話は不通の状態であり帰宅 させても家族がいるとは限らない 状態となります。
そのような事態が起きた場合
(1)日中活動の場を避難所とする
(2)近所の避難所にみんなで移動する
の二つの場合が考えられます。電気、水道、ガスがなくても宿泊可能かどうか、どれだけの備蓄品があるかどうかのみならず、 その建物が災害により危険な状態 になるかならないかで判断が分かれます。
A日曜など業務がない日の朝6時ごろに災害が起きた場合
この場合は職員がどれだけ緊急に集められるかが重要になります。集まった職員で事業所に残り対応を考える班と、利用者宅 に出向き安否確認を行う班に分か れて活動することになります。この場合も事業所そのものが福祉避難所として開設されることが望まれることも多く、そういう事態に対応できるかどうかあらか じめ決めておくことが必要です。
4. 事業継続の方向性を決めておく
入所施設の場合は建物が無事であれば、ライフラインが止まっても事業を休止させられない場合が多いと思います。しかし生 活介護や就労継続B型の事業を 行っている場合は一次的に事業は休止せざるを得ないことも多いのではないかと思います。また居宅介護についてはその人が一人暮らしなのか、家族等と同居し ているかどうかでサービスをストップしてやむを得ない場合と、サービスが絶対にないと生活が成り立たない状態とに分かれてしまうと思われます。
例)居宅介護事業所の災害対応と事業継続について
名前
|
同居家族の有無 |
災害時の避難場所 |
サービス提供の優先度 |
サービス利用の状態 |
Aさん |
無 |
決めていない |
◎
|
常時ヘルパーがいる |
Bさん |
有
|
近所の避難所 |
△ |
週3回ヘルパー利用 |
このような一覧表と対応できるヘルパーの一覧表をあらかじめ作成しておき、外部の応援も含め動けるヘルパーの確保次第で、サービスを届けるかどうかを決定
します。
また利用者にもサービス利用の優先順位をあらかじめ説明し、災害時にはヘルパー派遣ができないことをあらかじめ了解をも らっておくことも必要になりま す。
5.事業再開のめどをたてる
休止したサービスであってもできる限り早くサービスを再開するために、可能な手段をあらかじめ模索しておくことが必要で す。たとえば自分の事業所がある 都道府県以外の事業所と人員に関する応援協定を結んでおくことで、災害時に不足する職員を補うことも考えられます。
災害にもよりますが、被災してから3日目には応援協定を結んでいる団体などのボランティアが入り込める状態となります。
こういったボランティア等も活用し、事業再開のめどを立てる必要性があります。
事例) |